【2022.9.24】エチュードの問題点

 このブログで何度もレポートしていますが、このチームは「エチュード」と呼ばれる即興を繰り返しながら、シーンを構築していきます。登場人物のキャラクターや状況、場所など緩やかな設定を決めて、このシーンの後にこういうシーンがくるといった流れも緩やかに設定しながらシーンを作り込んでいきます。

このブログではこうした作りかたの「良さ」をレポートしてきたのですが、時には「問題点」についても触れておこうと思います。

比較的一般的な演劇創作の方法は台本を用いたものです。台本を使った作品では(役者に当てて書かれた書き下ろしの作品より、名作と言われる作品の方が望ましいですが)台本からその登場人物の背景や人となりを読み解き、リアリティを観客が感じてもらえるように演じることが求められます。これが俳優の重要な技術であり、醍醐味でもあります。ところが、人が書いたセリフは自分が日ごろしゃべっている言葉と違いますから、なかなか口に馴染みませんし、「役作り」と言われる台本で描かれている自分とは境遇や性格が異なる人物をどうやって自分の身体に落とし込むかはなかなかの難題です。シーンがどのように運ばれると面白くなるか、を戯曲から読み解くのも慣れていないと一苦労です。経験の薄い方は「セリフ」を覚えて台本に書かれた通り話したり動いたりすることで精一杯で、そのセリフが出てくるべき会話の流れや、発語する身体的な状況、演劇作品におけるそのセリフの効果や意味など多様な要件を処理しきれないことがあるのです。こうしたことは、演技を経験したことのある方はピンとくるかもしれません。

それに引きかえ、エチュードを起点とする作品作りは、自分の言葉で話すことができますから、セリフが自分になじまない負担や、発語する際のぎこちなさは解消され、リズムよく芝居を進行させることができます。役作りの負担もほとんどありません。最終的にセリフが決まっても、覚えるのが楽です。小劇場など狭い空間での上演でしたら、空間意識や肉体や声を鍛える必要からも解放されます。ですから比較的短期間で、役者の負担が少なく、役者の経験が浅くてもそれを感じさせない作品を作るのには向いた方法だと思います。

ところが、俳優経験が浅い方のエチュードは、自分に近いほぼ等身大の演技から出発するため、シチュエーションが与えられても、説明的にシチュエーションが語られるだけになり、シチュエーションにリアリティを与える身体的な説得力が薄くなる傾向があります。ですので、その身体に無理のない設定を与えるのがよく使われる手です。また、俳優はエチュードをする際ある一線を超えて踏み込まない傾向があります。演技とはいえ自分や相手が傷つかないようにどうしても保険をかけてしまうのです。

結果、作品が深まらないという問題を抱えがちです。軽ーい葛藤は描けても、深く傷つくほどの葛藤は扱いづらくなります。もちろん劇作家は即興の演技を活かしながらかつ物語を深めるよう腐心しますが、テーマによっては限界があります。

しかし、上演までの時間的な制約と、上演成果を見るにつけ、この方法はこうした経験にばらつきがある人が集まっての演劇創作では相当有効な方法であることは間違いありません。作品が深まらないと言いましたが、意識が高く、役作りや、演劇的テクニックに習熟していて、なおかつリスクを恐れず創造しようとする姿勢がある役者が揃えば、びっくりするような秀作も可能です。



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